GASTRIC研究について
概要 Summary
胃がんの罹患率は多くの国々で次第に低下してきていますが、世界的には、いまだにがん関連死亡の主な原因の一つであり、現在では第3位の、年間新規症例約951,000件、死亡例723,000例となっています (Ferlay et al., Int J Cancer 2015)。
Global Advanced/Adjuvant Stomach Tumor Research through International Collaboration(以下、GASTRIC研究)は、過去に胃がんに対する化学療法を評価したランダム化比較試験の個人データに基づくメタアナリシスを行うアカデミア主導の国際プロジェクトです。2006年より1st Roundとして、主に大きく2つの個人データに基づくメタアナリシスを実施してきました。1つは進行胃癌を対象とした化学療法の評価を行ったランダム化比較試験(RCT)を対象としたもの、もう1つは術後化学療法の評価を行ったRCTを対象としたものです。これらは共通した目的で実施され、1)化学療法の有効性に関する共通効果の推定、2)全生存期間(OS)に代わる代替エンドポイントとしての無増悪生存期間(PFS)、もしくは無病生存期間(DFS)の妥当性評価、でした。これらの結果は、2013年までに論文化され、根治術後胃がんにおいて手術単独と比した術後化学療法がOSを延長すること(GASTRIC, JAMA 2010)、術後胃がんにおけるRCTにおいてDFSがOSの妥当な代替エンドポイントとなりうること(Oba et al., JNCI 2013)を示し、以後の治療ならびに臨床試験の実施方法に大きな影響を与えました。一方、進行胃癌の化学療法については、明確な標準治療が明らかではなく治療効果も臨床的に大きなものではないこと(GASTRIC, EJC 2012)またPFSも評価のバラつきが非常に大きく妥当な代替エンドポイントとは言えないこと(Paoletti , JNCI 2013)も明らかとなり、今後に課題が残るものとなりました。
GASTRIC 1st Roundで個人データを収集した時代と比較しても、SPIRITS 試験においてS-1単剤に対するS-1+シスプラチン併用療法の有効性が示され(Koizuimi, Lancet Oncol 2008)、2nd line以降の化学療法の有効性も明らかになるなど(Kang, J Clin Oncol 2012)、分子標的薬の登場も相まって、近年は進行胃癌においてさえ化学療法の進歩は目覚ましいものとなっています。また臨床試験の適格基準や評価方法も厳格なものとなり、結果の偶然誤差によるバラつきも過去の試験より少なくなってきています。これらの背景を踏まえ、GASTRIC研究グループでは、新規研究課題および1st roundで解決できなかった課題の再検討を目的として、GASTRIC 2nd Roundの実施を検討することとなりました。研究目的は1)1st lineおよび2nd治療に関する化学療法のメタアナリシス、2)分子標的薬に関する化学療法のメタアナリシスと予後予測マーカーの性能評価、3)進行胃癌におけるカペシタビンに対するS-1、5FUの非劣性を検討するネットワークメタアナリシス、4)イリノテカンの併用療法、上乗せ療法の治療効果に関するメタアナリシス、5)PFS、奏効率、その他新規エンドポイントのOSに対する代替性の評価、6)予後、予測因子の探索、を考えております。